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レビュー: JAY-Z / The Blueprint 3

2009.11.19 Thursday | by garahebi
評価:
Jay-Z
Roc Nation
(2009-09-11)
コメント:意見が分かれる一枚。

3.1/5.0

Jigga, Jigga, NOT that Jigga. 
かつての王にあらずを印象づける停滞のアルバム。

このThe Blueprint3は、Jay-Zが所属をLive Nation傘下に設立したRoc Nationに移しての第一弾となる。結論としては…即効性はあるが持続性は感じなかった。そうは言っても話題作だけに、トピックだらけ。そんなわけで今回はシングル曲に絞って気になった点について書くことにした。

<1. D.O.A.騒動>
まずはアルバムのリリース前に、先行シングルのD.O.A.が話題となった。題こそDeath Of Autotuneの略で、anti-autotuneという言葉も出てくるものの、実際のところは流行りのテクノロジーに頼りっきりのMCを挑発するために、その象徴としてAutotuneの名前を出しているだけで、決してAutotuneそのものの否定ではない。どちらかといえばAutotuneが今使えなくなってもお前らは勝負できるのか?という挑発が根底にあるのだろう。そして勿論T-Painのことも糾弾していることはなく、Autotuneでエフェクトをかけることを最もその道でポピュラーな名前を動詞化して「T-Painする」という表現に置き換えているだけだ。(例:検索しろよ→ググれ/Google it.)歌いすぎ、T-Painの真似をしすぎているお手軽フォロワーの糾弾になっている。フックに毎回現われる"Only rapper to rewrite history without a pen"というフレーズはメモもペンも持たずにレコーディングに臨む達人MCとしての自信に満ち溢れている。

<2. ゲストとのバランスの悪さ>
続いてシングルとなったのがRihannaKanye Westを招いたRun This TownRihannaのフックにおける人をひきつけて止まない歌声が相変わらず素晴らしい。
そして今ヤンキースのワールドシリーズ制覇も相まって絶好調なのが現時点での最新シングルEmpire State Of Mind。結果としてはJay-Zに初のポップチャート制覇をもたらした一曲。Alicia Keysの歌うフックの力強さとポジティブな詞が最大の魅力となっていて、この曲を現代のNYC賛歌たらしめている。

ただ、正直なところゲストの歌唱の方に心が奪われてJay-Zの印象は薄くないだろうか。特に後者に至っては声に張りが無いようにすら聞こえる部分だってある。勿論こういったゲストを迎えた曲の表記は「Jay-Z+__」となっているので立場は対等、主も従もないと言いたいところなのかもしれない。が、Jay-Zのかつての声一本で共演者を押しのけんばかりのギラギラした力強さを忘れられないファンとしては物足りなさが残る。なぜか今回のアルバムで彼のキーが高い。その分押しが弱いように感じれる。そこから衰えなんて言葉を連想することはないが、テンションの緩さは感じられる。

<3. 新鮮さの欠如>
まずD.O.A.だが、この曲の発表の6週間も前に、べテラン二人によるスペシャルユニット、KRS-One & Buckshotが同じテーマかつ混乱を招きにくい表現でRobotというシングルを発表している。(彼らのアルバムSurvival Skillzはジャケ写以外は期待以上の出来だ)
例えばこれが初めてのことであれば、たまたま似たテーマの曲を作って、発表するタイミングが近くなってしまっただけと弁護できなくもないだろうが、KRSBuckshotの作品の後にJay-Zが似たようなコンセプトやトラックを偶然?リリースしていることを指摘する声が、ここを始めとしていくつか上がっていたりもする。
そしてRobotのPVがD.O.A.の音源発表の後に発表された。二人の特徴的な鼻…ではなく、最後の30秒ほどの画面をよく見て欲しい。

"The Official D.O.A."!!
ちなみにKRS-Oneはこの件について、7月のUrban Music Awardsのインタビューの中で「Jay-Zの方がpowerが大きいってことだろう。同じことを俺がやるよりも彼がやる方が大きく取り上げられるのさ」といった泣けるコメントをしている。もちろんJay-Z本人が認めない限りグレーのままだろうが、この一件に関しても英語圏のヒップホップファンたちは疑いの目を向けたコメントを各所で書き込んでいる(一番シンプルで分かりやすいのは両方の曲のyoutubeのコメント欄か)。'rewrite'が実は'overwrite'だったなんてことがないことを祈りたい。

こうなるとEmpire State Of Mindについても、似たような連想をついしてしまう。
Alicia
のパートが素晴らしすぎて見逃してしまいがちだが、Jay-Zがこの曲でやっていることは結局Nasの名曲N.Y. State Of Mindの何度目かの焼き直しじゃないのかと。Nas本人がI Am...で行ったPt 2Alicia Keysが同じトラックを使ってNasRakimを招いたStreets of New Yorkが第三弾とすれば、これはPart4。
詞に目を通せば全体的にはNew Yorkの荒んだ闇(あるいは病み/illness)を語るNasの曲に対して、Jay-Zは自身の成功物語を含めた輝かしい面を語っているのが対照的だが、そのNasも言及したヤンキースの帽子や、Street of...Rakimも言及したFrank Sinatraの名前をやはり使っている。NYの歌を作るなら二つともお約束な表現なのかもしれないが、逆に言えばそれだけ新鮮なものは作りにくいテーマでもある。
だったらタイトルぐらいは類似性を強く印象付けないものにしたほうがよかったんじゃないかと思う。それにAliciaが二度Nasと共演していることを考えるとこういった勘繰りが出ることは予想できることだと思うのだが…敢えてそうしたのだろうか?
ちなみに初めてこの曲を聴いたあと、こんなにAliciaのコーラス部分が素晴らしいんだから彼女主導のバージョンでも作り直した方がいいんじゃないかと思っていたが、やはりというべきか、つい先日Alicia単独のバージョンの動画が出回り始めた(一つ前のエントリで紹介)。レコーディングされるバージョンではJay-Zがこれにどう絡むのだろうか。楽しみでもある。

そう、楽しみでもある、と書いたとおり、実際のところこうやっていろいろつっこみどころは残っているものの、けっきょくRihannaAliciaは好きなのでこの二人の曲は何度も聞いてしまっている。アルバムの他の曲で言えばPharrellが歌いまくっているSo Ambitiousも好きだ。(以前から言っているがラップ曲での彼のワンパターンなフックは大っ嫌いだが歌い手としてはかなり好きだったりする。困ったもんだ)
アルバム全体としても、今年リリースされたヒップホップのアルバムの中ではそれなりに聴くことが出来ていたりもする。ただJay-Zの作品として考えた場合では「それなり」ではダメなんだと思ってしまう。例えばこれまでの作品を聴いてきた上でさらにFade To BlackのDVDを見た者であれば、アレだけシビアにトラックを選ぶJay-Zにしては、今回のトラックはほとんどが安全パイを選んだように聴こえるからだ。*
アルバムで突出しているように聴こえるのはゲストのパフォーマンスの方であり、音の面では中毒性のあるトラックはなかった。トレンドセッターでもなく、一年で消費されてしまうイメージだ。
期待したTimbalandにしても、さらっと聴けてしまう。最近の彼の音が安心して聴けるというのは以前の彼を考えると似合わない。でも詞的には二項を対比させていくVenus vs. Marsは面白い。
Swizzに関してはもう革新性を期待できる人ではないと思っていたら本当にいつもどおりだった。彼はたまーにものすごく面白いことをやるので本当は驚かせて欲しかったのだが。そして、同じように慣れた制作陣を起用するのであればJust Blazeが不参加なのも個人的には残念。残念といえばアルバム発売前にリークした際にも書いたけどKanye West制作・共演のHaterには本当にガッカリ。フロウをタントゥイスティングスタイルに戻すことで時代遅れ感が強調されるし、しまいにはJay-Zも'my pager'とか言い出す始末。2009年でポケベルてあんた。

そんなわけで、Jay-Z作品に牽引者としての音の革新性や中毒性を期待するファンとしては物足りないアルバムだったと言わせてもらおう。
逆にJay-Zに対してそっちを期待するわけではなく、今この瞬間流行っているのが聴きたいという人たちには大いに喜ばれる、ポイントを抑えて売りに出た作品であるのは間違いない。ゲストも旬の名前ばかりだし、ビッグネームの制作陣で脇を固めてある。悪いはずがないという印象を受けるのだろう。何しろ新レーベルの第一歩だからこの方向性は否定しない。目論見どおり売れているのだから。

最後に余談でしかないけれど、俺を含めて一部のファンには最近のJay-Zのアルバムは良作が一作おきに出るという法則も囁かれているので、早くも次回作に期待しようという意見が出始めている。
引退すらも覆してしまう男である彼に対する期待が簡単に失われるわけではないのよ。

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*これは以前紹介したAlex GooseBlueprint 3 Outtakesを本編を聴くより前に聴いてしまったことも影響していることは白状しておきましょう。
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1. What We Talkin' About (Jay-Z + Luke Steele of Empire Of The Sun)
2. Thank You
3. D.O.A. (Death Of Auto-Tune)
4. Run This Town (Jay-Z + Rihanna + Kanye West)
5. Empire State Of Mind (Jay-Z + Alicia Keys)
6. Real As It Gets (Jay-Z + Young Jeezy)
7. On To The Next One (Jay-Z + Swizz Beatz)
8. Off That (Jay-Z + Drake)
9. A Star Is Born (Jay-Z + J. Cole)
10. Venus Vs. Mars
11. Already Home (Jay-Z + Kid Cudi)
12. Hate (Jay-Z + Kanye West)
13. Reminder
14. So Ambitious (Jay-Z + Pharrell)
15. Young Forever (Jay-Z + Mr Hudson)

Comment
言わんとされてることがよくわかるなあと思って読ませてもらいました。
普通に考えれば、キラー・ナンバーも収録されていて、時代性も捉えつつ、ゲスト陣も豪華で、適度の話題性(オートチューン云々)もあるため、売れる要素はてんこもりといった印象。でも、過去のJay-Zの純粋な音のカッコ良さといったものは薄れているような感覚を僕も持っています。
アルバム1枚聴くというよりかは、好きな曲を抽出してそればかりを聴く感覚というか。
でもやっぱり彼には期待をしていまいますね、これからも。
>musiqmusiqさん
読んでいただきありがとうございます。
なんか日本では問題提起している記事が少なく、説明不要とか褒め逃げしているところさえあって気持ち悪かったんで書いちゃいました。^^;
Jay-Zに期待するところが大きいから、ということは読み取っていただけたようなので安心しました。
なんだかんだいって次のAliciaとのPart2以降も目が離せないですよね。
  • garahebi
  • 2009/11/21 11:18 PM
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